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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

その方向を天意が示す占と見て、楊志は、何処の地へ出る道とも知らず、やがてよろよろ麓の方へ降りていった。

その夜も、かなり更けてから、

黄泥岡の一端では、ようやく、執事だの強力の兵どもも、夜露の冷気に甦って、ごそごそ這い起き、

「さあ、どうしよう?」

と、今さらな不覚を喞ちあっていた。

「楊は、逃げたな」

執事の謝は、身の不始末を棚に上げ、何よりそれを罵った。

「いま思うと、あいつは薄々、毒酒を感づいていたのかも知れんぞ。いやいや、なんでもかでも、この場のことは、そういうことにしてしまおう。よいか者ども」

「こち徒の落度にゃなりませんかね」

「有ていにいったら、みんな首だ。だから先を越して、夜明け次第に、まずこの地方の役署へ訴えを出しておく。よろしいか」

「へい、どんなふうに」

「なにもかも、楊志の仕業と、彼奴におっかぶせてしまうのだ。黄泥岡の匪賊と気脈を通じ、ことば巧みに、われわれどもへ毒酒を飲ませ、あげくの果て生辰綱の宝はみな、横奪りして、消え失せましてござりますと。わかったろうな。どこで調べられても、口を合せて、押し通すのだぞ」

「わかりました。野郎には、遺恨骨髄、どうでも、そういうことにいたしましょう」