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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「……これが、音に聞く二龍山だナ」と、さらに麓へ迫り、その夕べ、どこか一夜の寝場所はないかと、吹き渡る松風の中を、あちこち歩き廻っていた。

すると、とある松の根がたから、突然、

「気をつけろッ。盲か、きさまは」

と、彼の背へ、どなりつけた者がある。

「おや、人間でもいたのか」

と、楊志は振り向いた。

見ると、むっくり起き上がった酒臭い大坊主が、いま楊志の足が、ふと躓いたらしい錫杖を拾い上げて大地にそれを突っ立てていた。

「やい、きりぎりす。なんとかいえ」

「なにっ」

「えらそうに、野太刀なぞ横たえやがって、なんで、いい気持でわが輩が寝ているところを、この大事な禅杖を足蹴にしながら澄ましていくか」

「枯れ木でも踏んだのかと思ったら、坊主の禅杖だったのか。天下の大道に、寝ている馬鹿もねえもんだ」

「ふざけるな。ここは二龍山の木戸の下、めッたな人間が通る場所じゃない。あやまれ」

「あいにく、頭を下げるのは、大ッ嫌いな性分だ。ははん、この乞食坊主、難クセつけて、端た金でもセビろうっていうんだな」

「ほざいたな。乞食坊主かどうか、この錫杖を食らってみろ」

とたんに、一颯の風が楊志のいるところをびゅっと通り抜けた。