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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
だが、女とすれば、こんな堅人は面白くでも酢ッぱくでもないのだろう。一しょに寝てさえ何となく味気ないやらぎこちなくて、地獄で母子が救われた恩人とは思ってみても、ついぞ真底、自分の男と抱きしめる気にもなれぬし、抱きしめられて、枕を外したこともなかった。
「……それにひきかえ、旦那の連れて来た張文遠さんは、役所では旦那の下役だそうだけど、なンてまあ、ほどのいい……」
彼女はその晩、すっかり張三(文遠)に魅されてしまった。色の黒い黒宋公旦那が、色白な張三の肉付きに見較べられては、よけい虫が好かなくなった。恋情は別れ際の眼もとにあふれていたろう。またそこは色道にかけての玄人張三のことだから、
「……ははあ、こいつは、ものになるナ」と、早くも見ていたにちがいない。
その後、いつのまにやら張三は、こッそり、ここへ一人通いをしはじめていた。つまり客ならぬ妾宅の間夫――。娘で食っているおふくろなので、閻婆もそこは巧く逢う瀬のやりくりをお膳立てしてやるしかなかった。後で思えば、これや“猫にかつぶし”のたとえ。下役の張三を、わが妾宅へ連れて来たなど、宋江としたことが一代の大失策だったといっていい。