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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「さあ……枕も二つ、こう鴛鴦に並べておきますからね。娘や。まあおまえも、いつまでそんなに拗ねているのさ。夜が明けてしまうじゃないか。可愛い殿御をお床へ寝せて、もすこし色ようしてお上げなねえ」

遊廓にむかし遣手婆というものがあった。まさにそんな呼吸をよくのみこんでいる閻婆のしぐさ。宋江は居るに苦しく帰るに帰れず、ただ理性と凡情と、そして瞋恚の炎に、てんめんたるまま、妖しき老猫と美猫の魔力に、現をなぶられているのみだった。

「ね、だんな、お気色を直して、もうお寝みなさいましてはいかがですえ。娘や、おまえも、たんまりと愉しみなよ。そして朝になってごらん。女ってえものは、すっかり気鬱ぎ病なんか癒ってしまっているものさね。……ほほほ」

二つの灯りのうち、小さい寝室の蘭燈だけを残して、閻婆はふッと灯を吹き消し、やがてコトコト階下へ沈んでしまった。

あとの二階部屋は、青白い湖になった。窓から映す残月が町屋根を黒々浮かしている。初夏ながら肌さむい。星が飛ぶのがスーと見えた。

悪酔いしたにちがいない。ころして飲んだ酒がツーンと宋江のこめかみに疼く。――宋江はふと思った。