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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「……婆惜と張三の仲はどうも怪しいが、といって見とどけたわけでもない。そうだ、女がどんな風におれに接するか、そしらぬ振りで見てやろう」と。
そもそも、これが宋江によく出来る芸か否か。――みれば、婆惜はすでに、着た物を脱がず、刺繍の枕にふて寝のすがただ。ふて寝とあるからには後ろ向き。まるっこいお尻はもう宵のくち情夫の張三の甘美するにまかせて、なお飽かない不足をぷっと怒っている恰好といえようか。さあれ、その艶姿は、海棠が持ち前の色を燃やし、芙蓉が葉陰に棘を持ったようでなお悩ましい。いってみれば、これや裏店の楊貴妃ともいえようか。あたりに競ぶべき絢爛がないだけに、その妖姿はよけいに猥らな美を独り誇ってみえる。
いまいましいし、宋江の性情としては、なんとも屈辱的な気がされたが、彼も冠り物をとって帳台わきの小卓におき、するりと脱いだ上衣をも衣桁へかけた。
「…………」
彼女はこっちを見向きもしない。けれど、かそけき気配もじつは全身で聞いているのがこの性の女の常である。「……小面憎さよ」と、宋江はその姿態を見すえながら、白い絹足袋をぬぎ、帯を解き、そしてふところの書類挟みと紙入れとを、小卓の上におこうとしたとき、ことんと、床の上に何かを取り落した。