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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「まあ。そんな、ならず者がかえ」

「……しまったと、拙者はそのとき観念しました。というのは、当時のならず者高毬が、四県追放となって、街門の人中で百叩きになった折、父の王昇は、もう仕官の身でありましたから、刑吏について、立ち会っておりました。すると、街の噂では、そのときの父の処置に、高毬がたいそう父へ怨みをふくみ、いつかはこの仕返しをするぞと、捨て科白を吐いていったとか。もう……十何年も昔のことですが、その記憶がハッと戸胸へきましたので、ああこれはいけないと、即座に、自分の死が見える気がしたのです」

「せがれよ、どうしようぞ。わたしも亡き良人から、むかし聞いていた覚えはあるが」

「あいや、うろたえ遊ばすな。幸い、一時家に帰されて、母上のお顔を見たので、拙者も、死んでたまるかと、心を持ち直して、一策を案じました。さ、さ……すぐお身支度にかかって下さい。父上からの思い出多い家ですが、邸を捨てて、遠くへ落ちのびましょう」

「だ、だっておまえ、邸の前後には、番兵もいるし、天下のお尋ね者になったら」

「番兵の頭、張と李の二人は、拙者の日頃の門下です。罪の軽くすむように、母上と共に、郊外の御岳の廟へ、祈願をこめに行って、夜明けぬうちに戻るからと頼めば、彼らもきっと、見ぬふりをしてくれるにちがいありません」