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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
したがって、宋江の就いていた押司の職なども、重要なだけに、ちょっとした私意や違法の間違いを犯すと、讒に会って、すぐ流罪だの家産没取の厄にあい、その連累は、一族にまでおよぶ有様。そこで官吏の多くは、戸籍を抜いて、あらかじめ九族の難にそなえ、また、穴蔵など造って内々家産を地下に匿しておいたり、日常何かの生活にわたるまで苦心のひそむものだった。――で、
「そんな生き方はもう鬱々だ。宋清までを一生の穴蔵の番人にはさせたくない」
というのが、偽らざる老父の真情だったに相違ない。
「さらば、ごきげんよう。今日の不孝はおゆるしください。いつかはまた、このおわびを」
宋江は幾たびも振り返り、宋清も名残り惜しげに、老父の影を遠くにした。この日、霧はやがて冷たい細雨と変り、県境の長い楓林の道は、兄弟の范陽笠と旅合羽をしとどに濡らした。
二人の旅は長かった。
日かずをかさねて、やっと辿りついたところは、滄州横海県の小旋風柴進の門前。――かつては、かの豹子頭林冲が、むじつの罪で滄州の大流刑地にひかれてゆく途中、一夜の恩をうけ、また後には、梁山泊へわたる手びきなどもして貰ったことのある――あの地方名望家柴進の門だった。