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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「なんと申す。では虎を退治いたした者は、そのほうらではなくて、旅の者か。しかも若い旅人ただ一人で打ち殺したと申すのか。どえらい人間もあったものだ。……して、して、その者は一体どこにおるか」
「それが、麓へ下ってから、どこへ行ったやら、見あたりませんので」
「なに、見当らんと。まさか何かの化身でもなかろう。探せ探せ、まだ遠くへは行っていまい」
武松はくたくたな姿である。村端れの居酒屋のすみで、正体もなく眠っていたのだ。ここでも空き腹へ一杯あおったに違いなく、もう欲も得もないといった恰好だった。
「豪傑、豪傑。どうか、ちょっとその、お眼をおさましなすってください」
急に耳もとで何かガヤガヤ騒々しいし、しきりに揺り起こす者があるので、武松がふと眼をあくと、県の役人やら名主やら……のみならず往来いっぱいな群集までが、
「虎退治のお客さんはあれだ。あれが虎退治の豪傑だ」
と、まるで祭りのような騒ぎでわんわんと歓呼している。
寝足らない眼をこすっているうちに、彼は、酒屋の軒から設けの駕籠に乗せられた。――見れば組み立てられたもう一台の台の上には、大虎の体が横たえてある。