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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「……なんだい、いねえのなら、兵舎で兵隊と飲んでいたのに」
武松は急に無口になる。取りなす金蓮は、かえって、一倍まめまめしい。下心とともに、耳たぶの紅から爪の先まで研きに研いていたことである。窓外の雪明りは豪奢に映え、内の暖炉はカッカと紫金の炎を立てる。武松が制服を脱いでくつろぐ間に、彼女は裏口を閉め、表の扉にもカギを卸してしまった。深夜のように、酒肴がいつか並ぶ。武松はうんもすんもいわずに見ていた。
「どうなすったの二郎さん。いやよ、そんな顔をなすっちゃあ。……ねえ、わたしにだって稀には兄さんにするように優しくして下さらない?」
「いや、話し相手がないと、つい武二って奴あ、こういう顔になるんですよ。何も嫂さんのせいじゃない」
「じゃあお杯を持ってよ。そして私にも酌いで下さいな」
「酌ぐことは酌ぎましょうよ。だが、あっしはもう沢山だ。兵営祭りで兵隊と、たらふく飲んだあとだから」
「あら、嘘ばッかり。兄さん飲もうよって言いながら家へ入って来たじゃないの。もう意地よ、私だって」
金蓮は三つ四つ手酌でつづけた。今日こそぶつかってやれ、と心に潜めていたものの、やはり勇気が欲しい。