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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

兄へもわび、また、嫂にも傷をつけないように武松は下げないでもいい頭を下げた。さすが金蓮もちょッぴり沁んみりした容子。階下では隣の王婆さんがお料理が出来ましたよと告げている。さっそく酒盃や皿数が並ぶ。しばしの別杯というので、その夜は三人仲よく杯を交わしていたが、やがてのこと。

「ときに兄さん。嫂さんもそこにいて、一つ、とっくり聞いておくんなさい」

武松はいつになく改まった。兄夫婦へ面と対って、こんな態度は初めてなのだ。

「――生まれ故郷の清河県でもそうだったが、この街でもそろそろ兄さんを小馬鹿にする餓鬼どもの声が立っている。饅頭売りの人三化七だとか、ぼろッ布れの儒人だとかろくな蔭口を言やあしねえ。小耳にするたび、畜生と俺あ腹が立つ。俺にとっちゃあ血を分けたたッた一人の兄さんだものな……。だが、やくざの俺と違って兄さんときたら、天性のお人好しだ。世間に苛め抜かれても苛め返すことなんざ知らねえんだ。それがまたいいところさ。だがね兄さん」

武松は自分の声に自分で瞼を熱くした。兄の武大は首を垂れる――。どっちが兄か弟かわかりゃしないと、金蓮は横目で見ていた。