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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

……まあ旦那のほうで仰っしゃるから、あけすけに言っちまいますが、陽穀県一の薬種問屋、西門大郎の御寮人にしては、亡くなったおくさんは、余り良妻じゃなかったんですってね」

「悪妻も悪妻だし、嫁に来てから病み通しだったんだよ。のべつ医者よ薬よ、別荘行きよと、贅沢三昧をやったあげく、亡くなったのさ。番頭手代、数十人も召使っているが、いらい女房だけは、それに懲りてね」

「だけど旦那え。外にはたんと、美い妓をお囲いなんでしょ。お隠しなすっちゃいけませんよ」

「ああ。あの小唄の女師匠のことかえ」

「あの女もだけれど、新道の李嬌さんなぞも、向うから旦那に首ッたけだって噂じゃありませんか」

「違う。違う。あれもね、弟を官学校へ入れたり、母持ちなので、つい面倒をみてやっているが、向うですまないすまないと言い暮らしているだけで、こっちは正直、足も余り向かないほうなのさ」

「でしょうね、どうせ。なにしろ、色街でも引く手は数多な伊達者ではいらっしゃるし、お金はあり余るうえ、おまけに、女には人いちばい、お眼が肥えているんだから、めったに、旦那のお気に召すような女なぞありッこなしでござんしょう」