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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
おかみさんは」
「おかみさんだなんて、仰っしゃらないで。……なんですか私、かなしくなる」
「そう、そう。禁句ですってね。わたしもあのお喋り婆さんに、亡くなった家内のことやら、あの女この女の、街の取り沙汰など持ち出され、あなたの前でてれ臭くってしようがなかった。といって、私もまだ男の三十そこそこ。この幾年は童貞も同じような独り身ですものな。心からの浮気ではなし、察して下さいよ」
「でも。ひとから見れば、さぞかしと思うでしょうね。そう見えたって、無理ありませんわ」
「じゃあ、金蓮さんから私を見たら? ……」
「わからない! ……」と、艶やかに、かぶりを振って「わかりませんわ、わたしなどには、殿御のほんとのお心は」
「うそばっかり。あなただって、まんざら男を知らないでもないのに」
「だって、わたしの知った男といっても」
「おや、涙ぐんで、どうしなすった。いやもう、つまらないことは思いッこなしにしよう。さ、さ、涙なぞ拭いて、も一つどう」
銚子を向けた肱の端で、西門慶は、わざと卓の象牙の箸を、下へ落した。
かねて、婆さんからも、言いふくめられていたことである。
「試しに、卓上の箸を落して、拾うと見せ、そっと女の脚へ触ってごらんなさい。