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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
彼はもう冷静だった。県役署の私宅にもどると、白い浄衣に着かえ、麻の縄帯を締め、その内懐へは鋭利な短剣一振りを秘していた。
「おい従卒、一しょに来い」
ふたたび街へ出ると、途中で従卒に野菜、穀類、供物、香華の物などを買い調えさせ、それを持って夕方また亡兄の家を訪い、
「姉さん、今夜はひとつ弟の施主で、回向をさせてもらいますぜ」
と、祭壇の前にぶッ坐った。
そして連れて来た従兵にいいつけて、精進飯やら団子などを作らせ、まず祭壇へ供えてから、近所の者二、三を呼んで振舞った。そしてその中で、武松は仏の位牌へ坐り直し、胸元に掌を合せていたと思うと、生ける人へでもいうように、
「兄貴。あんなに俺が言っといたのに、なぜ死になすった! よもやただの不養生や病気で死になすったわけじゃあるめえ。迷っているなら迷っているとそこから化けて出ておくんなさい。生きてるうちから愚図で煮え切らねえ兄さんだったが、死に方までがはッきりしねえたあ一体どうしたわけなんだ。もしいわれのねえ非業な死をでも遂げなすったンだったら、この弟は、きっと仇を取って上げますぜ。夢でもいいから武松にそこをお告げしておくんなさいまし……」