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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「おうけとりの公文をいただいたら、すぐ立ち帰りたく存じます」

と手続きを運んだ。

州尹は、一瞥して、

「武松は、牢城の獄へ廻せ。――東平府の使いは大儀であった。帰府してよろしい」

と、幾通もの文書へ、ベタベタ判を捺して下僚へ手渡した。

すでに“牢城”とは、名からして恐ろしい。まさに煉獄の城である。

いったい、世には、こんな巨大な獄房の数を必要とするほど、悪人が多いのだろうか。――だが、武松の眼で見ると、監房の中にウヨウヨしている顔よりも、警棒や鎖を鳴らして、監外を威張ッて歩いている顔のほうが、どう見ても“善”でなく“悪”の徽章に見えてしかたがない。

「おい、新入り。おめえ、金を持って来たかい。ここは世間以上、金がものをいう地獄だぜ」

「金。……金なんぞ、一文も持たねえよ。牢内には、酒屋もあるめえ」

「だって、まず初手からして、差撥(獄吏)や監察に、ごあいさつの銀子をお供えしねえと、これだぜ」

「これたあ、なんだい」

「お約束の殺威棒で、百打の叩きを食らうのさ。まともに食ったら、血の泡を口から吹くンだ」

「ふうむ。それで新入りの者の、土性ッ骨を脱こうてんだな。ま、いいようにやってくれ」