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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
そんなンじゃねえや。おい、屁ッぴり腰はみッともねえぜ。しっかりやんな」
「こいつが」
棍棒を振りかぶッた軍卒二人が左右から迫って、交互に、あわや一百棒をかぞえだそうとした。
すると急に、なに思ったか管営が「待て!」と止めた。その側にいた一人の若い男が、管営の耳もとへ何か囁いて、制止させたものらしい。
それは二十四、五歳の白皙紅唇の若者だった。細い美しい髭を生やし、その髭を唐風でなく、北欧人のように上へピンと刎ねあげている。身装は黒紗の袍衣に白絹の帯を横結びに垂れ、そして、頭にも手頸にも白い繃帯をまいていた。
管営はその若者から、なにかもいちど、囁きを耳にうけると、
「百棒は中止せい。いずれまた、武松の体が癒ってから申しつける。――それまでは独房へ抛り込んでおけ」
と、軍卒に命じたまま、すぐそこを立ち去りそうにした。
「なにいってやがる」武松は叫んだ。「おれは病気でも何でもねえぜ。なぜやめるんだよ、おい」
「だまれ。上司から来た調書によれば、元来汝には、時折り狂癲の発作があるよしが認めてある。狂気を打ちすえても、御法の殺威棒の主意にかなわん。正気の折に打ってくれよう」