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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

しかし独房遠くひとり隔離されてみると、武松にしてもいい気持ちはしなかった。

果たして夜に入ると、べつな老軍卒が、獄に似合わぬご馳走を差入れてきた。それは一椀の白飯などではない。煎肉、うどん、汁、酒までが付いている。

「おいでなすったぜ。ままよ、飲っちまえ」

満腹するなり、あとは高鼾の彼だった。

翌朝の食事もまたすばらしい。

「酒はねえが、果物まで付いてやがる。ふふふふ、こうなると、この世に妄念が多くなるな」

いや晩にはまた、前夜にまさる調理の品の数々だった。しかも酒は上酒。鯉の飴煮などの美味さといったら堪らない。

こんな待遇が七日もつづいた。

「はて? いったい俺を、どうする気なんだろう?」

すると、いつも一人で来る老軍卒が、その晩は、もひとり兵隊をつれて来た。大盥を抱えて来て、湯を運び「入浴しろ」とすすめるのである。あげくに理髪師がやって来て、きれいに結髪し、肌着、袍衣まですっかり新調の物とかえて行った。いよいよ彼にはわけが分らない。

「武松都頭。そこを出て、どうぞこっちへ移って下さい」

翌朝のこと。

例の老軍卒が彼をみちびいて、監房隧道から、陽の目のある階段を先に登って行った。