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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
――附近の宿屋、両替屋、ばくち場、旅芸人などからのツケ届けも以前にも増す景況だった。
「都頭。このご恩は決して忘れるこっちゃございません。どうか、あなたも月の内半分は、ここにいて自由に何でも好きにして、お暮しなすって下さいまし」
施恩は言った。
世辞ではない。父は牢城の管営という要職にある。武松の労役は、その職権と金の力で、どうにでもさせようという意味だ。
それに負ぶさる気もないが、酒は飯より好きな武松である。それに身ままも出来るとあっては、ついここへ入り浸りの恰好となったのもむりはない。
いつか、風も秋めき、酒の味も、いちばん美味くなってきた一日のこと。
「こちらに、虎退治の武都頭がおいでなさいますか」
と、見事な鞍をおいた黒鹿毛を一頭曳いて、二人の兵が訪ねてきた。
モールで縁を繍った草色の制服は総督府の従兵と一ト目でわかる。施恩が出て用向きを聞いてみると、
「わが張総督が、一度、都頭の男振りを見たいとの仰せです。即ちお召状はこれに」
と、一通の書面を差出した。裏面には、
孟州守備軍総督、張蒙方
という大きな角印。
施恩は、裏の小園に榻を持ち出して昼寝していた武松をゆり起して、書面を見せ、