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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

私邸の奥と、総督の公式の座との中間にあり、なにくれとなく、

「武松、武松」

と呼ばれて、新参者には過ぎたほどな、朝夕の寵愛ぶりだ。

本来は彼、ここらで、はてなと思いそうなものだったが、根が情にもろく、人の愛に渇いていた人間なのである。真底、居どころを得たかのごとく、そして真人間に返らんものと、総督の靴を磨く仕事一つにも真心の光をみせていた武松であった。

早くも秋は、仲秋の一夜となった。

その夜、鴛鴦楼の台には、仲秋の宴があった。ここのみならず、孟州の城内外の灯も、地の星と眺められる。

「武松、そちは酒好きと聞いていたが、さっぱり飲まんじゃないか。こっちへ進め」

「はっ」

「なぜ、そう固くばかりなる?」

「ご夫人から、ご一族、将校がた、歴々たる大勢さまの席などでは」

「はははは。豪傑にも似合わん卑下を。……これ武松、わしはそちを、一箇の義士として、世話しているつもりだ。わからんか、この情けが」

「閣下……」武松はひざまずいて、声をうるませた。キラと顔の下から月光が涙を見せた。

「ありがとうございます。おことば、身に沁みまして」

「なにをメソメソ。さあ飲め」

「いただきまする」