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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「玉蘭、酌いでやれ。いやいや、大丈夫たる者に、そんな小さい杯はいかん。大きいので酌いでやれ」

侍女の玉蘭が、瓶を持って側へ寄って来た。

武松は久しぶりに、それを一ト息で飲んだ。

「見事、見事」と、辺りで称える。さらに二杯三杯、眼をつむりながら、月を吸うごとく立てつづけに傾けた。

「さあ面白くなったぞ。玉蘭、ひとつおまえの故郷の歌謡でも舞うて見せんか」

この玉蘭とは、おそらくは閣下ご秘蔵のお小間使をかねた愛妾にちがいあるまい。

「はい」

といって、すぐ月の楼台の中央に立った。

襞のある桃色の裳袴には銀モールの縁繍いが取ってあり、耳環の翡翠はともかく、首飾りの紅玉やら金腕環など、どこか中央亜細亜の輸入風俗の香がつよい。いや女の白い皮膚とか眸など、はるか西域を越えて買われて来た白色人系らしい女奴隷の血がはっきりしていた。

しかし、やがて彼女が歌い出したのは、やはりこの国の詩人蘇東坡の一詩を俗歌とした一トふしで、

君、いつの世よりか、世にありと

酒まいらせて

み空に、問わん

玉のみや居に、玉のきぬ

高きあたりは寒からん

君、いくとせにましますか

そのかんばせに

老いを見るなく