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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
の後に発見され、すわと、大騒ぎになったものの、すでに犯人の影もみえず、ただ官邸の白壁に血しおをもって、
是ニ来ッテ是ヲ為セルハ打虎武松也
と、書いてあった、というのである。
「ひぇっ……。よくもまあ大胆な」
噂は、醒めぬ悪夢のように孟州城内を暗くした。以後幾日かは、城外盛り場の灯すらともらず、沼のような凄気が昼も冷たく吹いていた。
なにしろ、これは一地方の行政では到底処理もつくまい。総督、軍団長の横死とあっては、中央政府の威信にもかかわろう。そして当座たちまち、武松の人相書、生地年齢、罪歴などとともに逮捕の官令が、諸道諸県へわたってひろく配布されたようではあるが、しかし犯人武松の足蹟には、かいもく何のつかむところもなく、ただ、血まなこな狂奔にくれていた密偵群の網の目にも皆目行方知れずであった。
では、当の武松はどこにいたか。
その間、彼が身を匿ってもらっていたのは、かの十字坡の一軒家だった。――とだけでは、読者もはや思い出せないかもしれぬが、そもそも、武松が孟州入りの前日に義を結んで別れた例の峠茶屋の夫婦者――菜園子の張青と、その女房、母夜叉ノ孫二娘にわけを打明けて、身を潜めていたのである。