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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

緑林の徒も真人は啖わぬ事。 ならびに、危なかった女轎のこと

一刻後の彼は、縄目の死地から俄にその家の客院の客としてあがめられていた。浴室で負傷の箇所には手当をうけ、また肌着や衣帯なども、すべて新しいのとかえられていた。

「ここで先生にお目にかかろうとは?」

武松は何度となくいって、人の世の流転邂逅の奇に浩嘆を発するのだった。

彼を見て「――これは自分の弟分だ」と驚き、すぐこの家の兄弟に命じて、彼の縄を解かせた人は、じつに故郷城県の宋家村を立退いた以後その消息を世に絶っていた宋押司――かの及時雨宋江だったのだ。

かつて武松とは、妙なことで、お互いに忘れがたい印象をのこし、しかもその場で兄弟の約までむすんでいた。

あれは滄州の小旋風柴進の屋敷だった。故郷を落ちて、そこの客となった宋江が、邸内の暗い廊下を行き迷って、瘧病みの男の足を踏ンづけて呶鳴られたことがある。

それが武松だったのだ。

あるじの柴進のとりなしで、その晩、杯をともにしまた数日をともに送って、じつに愉快な男であることを知ったが、その武松はまもなく兄を慕って、旅へ去って行った。しかし以後もしばしば、武松の名はいろんな事件で江湖に高くなり、「――あいかわらず、やっているな」