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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「…………」

「まず、この第一矢で、右の泰瓊神の手こぶしを射当ててみせる」

言下にびゅんと鋭い弓唸りが人々の耳を搏った。矢は奇術のように、右門神の拳に立っていた。

「次には――」と、早や二の矢をつがえ、花栄は一ばい声を張上げて、「こんどは、左の敬徳神の兜のまッただ中を射よう。眼の玉をひっくり返すな」

きゅっうと、一線の空気が裂けた。はっと我れに返った人々の眼が、左門神の兜に突ッ立った矢を知ると、思わずわっと嘆声をどよめき揚げた。

しかし花栄の手には、さらに第三の矢が用意されかけていた。そしてつがえた鏃を、寄手の中へ向けて叫んだ。

「その中の赤い戦袍と、白い鎧の奴が、雇われて来た師範だな。覚悟をしろ」

「うへッ」

と、彼らの影はすぐ没してしまい、同時に二百の寄手は、蜘蛛の子になって潰乱してしまった。

こんな大騒動の起因が、自分にあるものと考えては、宋江の性格として、もう晏如とこれを見てはいられない。

その晩、宋江は花栄へ告げた。

「花君、あなたのご懇情は、身に沁みて忘れませんが、しかしこれでお暇を告げるとしたい」

「えっ、どうしてです。劉高ごときに恐れをなしてきたんですか」