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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
秦明の仙人掌棒も用をなさぬ事。ならびに町々三無用の事
「麓から十里ほど手前で兵馬をとめ、今夜は野営する様子!」
刻々の物見の声は、まるで颱風来のようである。が、山寨の中はしんとしていた。
宋江がいる。
また小李広花栄もいる。
おそらくは、清風山全体の賊は、二人の智と勇に恃んで「――来たら来た時、ござンなれ」としていたのではあるまいか。
秦明の仙人掌棒も用をなさぬ事。ならびに町々三無用の事
わざと山麓に一夜を明かして、大いに英気を養った官兵は、黎明と同時に、山へむかって、ど、ど、ど、どウん……
と砲口を揃えて、まず石砲をぶッ放した。
つづいて銅鑼や陣鼓の音が、雲を裂くかとばかり野に起ると、山上からも狼煙が揚がり、山くずれのような一陣の賊兵が麓ぢかく陣をしいた。
「やあ、洒落くさい草賊めら」
秦明は、金鎧さんらんたる馬上姿に、例の鉄の仙人掌棒を小脇に持ち、近づいてみると、賊兵の中に擁されている大将風なのは、まぎれもない小李広花栄ではないか。
かっとなって、馬をすすめ、
「やい花栄。なんじの家は代々朝廷の一武官たる上、身は鎮台の将として地方へ赴任していながら、山賊の仲間に落ち入ったとは何事だ。恥を知れ」
「おう秦総監か。