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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
こよいの出来事は、まるで貴公たちを罠にかけたようなものだから」
「ご冗談ではない。何が起ろうと、九紋龍どのが罠に陥したなどと思うわれらではありません。おうっ、待ってください、火をかけるのは」
一方へは絶叫しながら、彼らはみずから後ろへ両手を廻し、覚悟のほどを見せて言った。
「かばかり潔いあなたに、山賊渡世のわれらが、おつきあいを願って、こんなご迷惑をかけたかと思えば、手前どもこそ申しわけがない。さあ、年貢の納めどき、われわれに縄打って、県城の役人へ突き出しておくんなさい」
「ばかをいえ。そんなことをしたら、史進一生の男がすたる。おれにそんな真似をしろというのは、おれに乞食をしろというのもおなじだ。……おお火の手はあがった。ともかく、ここは斬りひらいて、一時、おめえたちの山寨へ落ちのびようぜ」
邸内の火を見て、門外の喊声もまたあがった。すでに、史進が鎗を小脇に門の閂を外して躍り出したので、朱武、楊春、陳達らもともに斬ッて出ざるをえなかった。
黒けむりはたちまち疾風雲の翔けるに似、名月は血の色そのまま、剣光の雨と叫喚を下に見ていた。――まもなく掃かるる風葉のごとく、県尉の馬や捕手の群れは逃げ散ッた。