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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
また一方。少華山へさしてヒタ走りに走った人影の列もある。そして、すべてが去った史家村の寂たる暁を、なおまだ、旧家百年の大棟木だの土倉だの四隣の木々は、ひとりバチバチと火をハゼつつ旺な炎を狂わせていた。
おもえばおれも愚かしい。――と史進は自嘲して呟いた。――先祖はさだめし嘆くだろう。だが持って生れた性分ではしかたもない。あのとき、あの身代よりも、三人の賊に対する一片の義の方が重い気がしたのだから、こんな子を生んだ罪はやっぱり先祖にあるんだ、と。
「……だが、この山寨に、いつまで、なすこともなくいたところで始まらない。そうだ、今は家蔵もない身まま気ままの体、先年お別れした王ご師範を尋ねて、延安府へ行ってみよう」
少華山へ隠れてから約一ト月ほど後のこと。
九紋龍史進は、思い立った胸を三頭目に打ち明けて、
「すまないが、ここへ避難した奉公人や若者は、時をみて正業に返してくれ。持ってきた金銀は、その折り、皆で分けるがいい。おれは、師匠の王進先生を尋ねてこれから関西の旅につく」
もちろん、朱武、陳達らの賊頭も、村の人々も彼との離別を悲しんで、極力とめた。けれど、この流離たるや、そもそも史進その人が、生れながらにして百八星中の一星たる宿命だったことによるものだろう。