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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
友情一片の真言も、紅涙一怨の閨語には勝らずして仇なる事
第一気がクサクサして店の客へお愛相も見せていられない。ぶらっとその日、州橋の街通りを行きつ戻りつ、なんとか楊雄を役署から呼び出す法はないものかと考えていた。
「おいっ石秀。どうしたんだい。浮かぬ顔して」
「あ、兄貴か。いや今、思いきって、役署の誰かに頼んでと……考えていたとこなんで」
「おれにかい。おれに会いに?」
「へえ、折入ってね」
「いつだって、家で会える仲じゃあねえか。なんだって、わざわざ外で」
「兄貴。ここじゃ何ともおはなしが出来ません。ちょっと、一杯つきあっておくんなさい」
「君に奢らせる手はないよ。ここらは縄張り内だ。おお、そこへ登楼ろう」
橋畔に見える一亭。顔ききの楊雄である。先に入る。楼中の者、下へもおかない。
「料理も酒もそれだけでいい。呼ばないうちは、誰も来るなよ」
そこで楊雄は、あらたまって訊ねた。
「石秀。義の杯は、伊達に交わしたわけじゃあない。君の憂いは俺の憂いだ。さ、何でも打明けてくれ」
「いや兄貴。自分のことじゃあないんだ。じつは兄貴の女房――義姉さんのことにつきましてね」
「なに。巧雲のことで?」
「へ。……言い難いなあしかし……。だが、いわずにもいられまい。