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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
もう間に合わねえ!」
石秀は相手のもがきを後ろから抱きしめたまま、右手の短刀で如海のわき腹を深く刺した。抉りまわし、抉り廻して、どんと捨てた。
霜の路次を、さっと鮮血が流れ走る。彼は、如海の頭巾や法衣を剥ぎとって手に抱え、路次から往来へ飛鳥のごとく躍り去った。……と、まもなく夜は白々明け。世間のあちこちでは、戸を開ける音。車の往き来。
「たいへんじゃ。人殺しじゃ。裸のお坊さまが殺されている!」
いちばん先に、路次の死骸を見つけて騒ぎ出したのは、毎朝これもきまってこの辺へ手車の鈴を鳴らしながら廻って来る、餅粥売りの爺さんだった。さあ騒動である。往来はすぐ人の山。役署からは検死が来る。目明しが近所一帯を洗って聞き廻る。
死体は、報恩寺の如海とすぐ知れた。もう一人の頭陀、これは気絶していただけなので、すぐ息を吹っ返し、裸のまま拉致された。頭陀は報恩寺の納所、胡道人というやつ。彼の白状で事はあらまし奉行所の調書にのぼった。
ところがまずい。事件は牢役署勤めの官人楊雄の妻の姦通沙汰だ。おそらくは楊雄がそれを知って、他人の手で姦夫如海を殺させたものにちがいなかろう。