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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
その狂える様は、淫蕩な女体が、焚きこめられた春情香の枕を外して、歓喜の極に、一喚、死息を怪しましめ、一叫、凝脂を汗としてうるおす、あのせつなに見せる摩那識の全くうつつない貌とそっくり似たような態でもあった。――おそらくはふと、良人楊雄の脳裡には、そのとき、他人の覗きえない幻影が彼女の姿態に重なって見えていたのではあるまいか。
「やかましいっ」
大喝、こういったが、その剣の先は、彼女の悶動する乳くびのへんを、わずかに、ちょっと突いたのみである。血が走った。紅い絹糸のような血の条だ。でも彼女は仰山なうめきをあげ、
「助けてーッ。死にたくない。人殺しっ。誰か来てえーッ」と、声をからして叫びつづけた。
このさまを見て、小婢の迎児は、縄目のまま灌木の中を跳び出して逃げかけた。一閃、楊雄は躍ッて迎児を斬り伏せ、返すやいな、その血刀で、
「阿女、思いしれ」
と、巧雲の心部を刺しつらぬいた。血を見るや彼自身も、その濛気に酔ってきたのか、女の半裸から裳の下までをズタズタな朱に斬りさいなみ、あとは憑かれたものの如く、茫然、血刀をさげて我に返らぬことしばしであった。
「……兄貴、やんなすったね、とうとう」