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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

朝飯前の空き腹ではあり、ままよという気も手つだっていた。「――ごめんよ」とばかり入り込み、そ知らぬ顔をして、腹を拵え、道など訊いていたものだった。

そして。「どれ、出かけようか」と、立ちかけると、あいにく、入れちがいにぬうっと入って来た、片目“目ッぱ”の大男がある。その半顔から瞼まで引ッ吊れている恐い顔が、

「おや?」

と、楊雄の背を振り返ったと思うと、さらに声を大にして呼びとめた。

「おお! 薊州奉行所の牢役人。そうだ、そこへおいでなさるのは、たしかあだ名を病関索とおっしゃる牢頭さんじゃございませんか」

彼を呼びとめたのは、中山府の人で、片目の醜いところから、鬼臉児と異名のある、杜興という人間だった。

その杜興は、薊州の地に暴動があったとき捕まって、後日、免囚となってからも、しばらく楊雄の世話になっていたことがある。

楊雄はすっかり見忘れていたが、何やかや、話のうちに、やっと思い出し、

「ああ、あの暴動の時の一人か。こいつア妙な所で会ったもんだな」

「へえ、その鬼臉児の杜興ですよ。こっちは暴動仲間の一人。旦那は薊州の首斬り役人。もう病関索の刀のサビかと、素直にあきらめをつけていたら、なんと、免囚の後々まで、えらいお世話になりまして」