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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

吉川英治『三国志(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 页

青空文庫

去ぬる建安八年の戦いに、父の凌操は、黄祖を攻めに行って、大功をたてたが、その頃まだ黄祖の手についていたこの甘寧のために、口惜しくも、彼の父は射殺されていた。

そのとき凌統は、まだ十五歳の初陣だったが、いつかはその怨みをすすごうものと、以来悲胆をなだめ、血涙をのみ、日ごろ胸に誓っていたものである。

彼の心事を聞いて、

「そちの狼藉を咎めまい。孝子の情に免じて、ここの無礼はゆるしおく。――しかし家中一藩、ひとつ主をいただく者は、すべて兄弟も同様ではないか。甘寧がむかしそちの父を討ったのは、当時仕えていた主君に対して忠勤を尽したことにほかならない。今、黄祖は亡び、甘寧は、呉に服して、家中の端に加わる以上――なんで旧怨をさしはさむ理由があろう。そちの孝心は感じ入るが、私怨に執着するは、孝のみ知って、忠の大道を知らぬものだ。……この孫権に免じて、一切のうらみは忘れてくれい」

主君からさとされると、凌統は剣をおいて、床にうっ伏し、

「わかりました。……けれど、お察し下さい。幼少から君のご恩を受けたことも忘れはしませんが……父を奪われた悲嘆の子の胸を。またその殺した人間を、眼の前に見ている胸中を」