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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

吉川英治『三国志(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 页

青空文庫

二

二

一方。新野の内部には、孔明がそこに迎えられてきてから、ちょっと、おもしろくない空気が醸されていた。

「若輩の孔明を、譜代の臣の上席にすえ、それに師礼をとらるるのみか、主君には、彼と起居を共にし、寝ては牀を同じゅうして睦み、起きては卓を一つにして箸を取っておるなど、ご寵用も度が過ぎる」という一般の嫉視であった。

関羽、張飛の二人も、心のうちで喜ばないふうが、顔にも見えていたし、或る時は、玄徳へ向って、無遠慮にその不平を鳴らしたこともある。

「いったいあの孔明に、どれほどな才があるのですか。家兄には少し人に惚れこみ過ぎる癖がありはしませんか」

「否、否」

玄徳は、ふっくらと笑いをふくんで、

「わしが、孔明を得たことは、魚が水を得たようなものだ」と、いった。

張飛は、不快きわまる如き顔をして、その後は、孔明のすがたを見かけると、

「水が来た。水が流れてゆく」

などと嘲った。

まことに、孔明は水の如くであった。城中にいても、いるのかいないのか分らない、常に物静かである。

或る時、彼はふと、玄徳の結髪を見て、その静かな眉をひそめ、

「何ですか、それは」と、訊ねた。