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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

吉川英治『三国志(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 页

青空文庫

三

今日はさる私情にとらわれて、私に赦すことは相成らぬ」

「いや、いや。過去の事のみ語るようだが、将軍がその主玄徳の行方をなお知らず、主君の二夫人に仕えて、敵中にそれを守護されていたことは、私の勤めではあるまい。奉公というものであろう。曹操が乏しき仁義をかけたのは、ご辺の奉公心に感動したからだった。誰かそれを私情といおうや。――将軍は春秋の書にも明るしと聞く。かの公が子濯を追った故事もご存じであろう。大丈夫は信義をもって重しとなす。この人生にもし信なく義もなく美というものもなかったら、実に人間とは浅ましいものではあるまいか」

諄々と説かれるうちに、関羽はいつか頭を垂れて、眼の前の曹操を斬らんか、助けんか、悶々、情念と知性とに、迷いぬいている姿だった。

三

――ふと見れば、曹操のうしろには、敗残の姿も傷ましい彼の部下が、みな馬を降り、大地にひざまずき、涙を流して関羽のほうを伏し拝んでいた。

「あわれや、主従の情。……どうしてこの者どもを討つに忍びよう」

ついに、関羽は情に負けた。

無言のまま、駒を取って返し、わざと味方の中へまじって、何か声高に命令していた。