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さんごくし
三国志(五)
吉川 英治
吉川英治『三国志(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 页
四
斬って斬って斬り死せんかと、さいごの肚をきめていた。
ところが、水中から声があって、
「呉の船待てっ。わが君の留守をうかがって、幼君阿斗をいずこへ伴い参らすぞ。燕人張飛これにあり、船を止めろっ」と、龍神が吼えるかと疑われるばかり聞えた。
「おお、張飛か」
呼びかけると、一舟の中から、
「趙雲そこにいたか」
と、下からも呼び返しながら、はやその張飛をはじめ、荊州の味方は、たちまち、八方から鈎縄を飛ばして、呉船のまわりに手繰りついた。
張飛が船上へとび上がると、出合い頭に、周善が戈をもって斬りかけてきた。龍車に向う蟷螂の斧にひとしい。張飛が、
「くわっ」
と云ったとたんに、彼の一振した一丈八尺の蛇矛は、周善の首を遠くへ飛ばしていた。
「虫けらどもが」
張飛の眼にふれたらさいご、その者の命はない。呉の兵は人の跫音を聞いた蝗のように船じゅうを逃げまわった。
「一匹も生かすな」
殺伐するに仮借のない張飛は、歩むところに朱をのこしながら胴の間を濶歩した。
すると一隅に、侍女たちに囲まれたまま、立ちすくんでいた玄徳夫人のすがたがあった。
「…………」
「…………」
夫人は必死な気位を持って彼を見下ろそうとした。