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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

吉川英治『三国志(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 页

青空文庫

二

「何です? これ以上、痛心にたえないこととは」

「故太守が亡くなられて、まだ墳墓の土も乾かないうち、この荊州九郡をそっくり挙げて、曹操へ降参の書を呈したという一事です」

「えっ、ほんとですか」

「偽りはありません」

「それが事実なら、なぜ貴君には、直ちに、喪を弔うと号して、襄陽に行き、あざむいて幼主劉※(「王+宗」、第3水準1-88-11)をこちらへ、奪い取り、蔡瑁、蔡夫人などの奸党閥族を一掃してしまわれないのですか」

日頃、温厚な伊籍すら、色をなして、玄徳をそう詰問るのであった。

二

孔明も共にすすめた。

「伊籍のことばに、私も同意します。今こそご決断の時でしょう」

しかし玄徳は、ただ涙を垂るるのみで、やがてそれにこう答えた。

「いやいや臨終の折に、あのように孤子の将来を案じて、自分に後を託した劉表のことばを思えば、その信頼に背くようなことはできない」

孔明は、舌打ちして、

「いまにして、荊州も取り給わず遅疑逡巡、曹操の来攻を、拱手してここに見ているおつもりですか」と、ほとんど、玄徳の戦意を疑うばかりな語気で詰問った。

「ぜひもない……」と、玄徳は独りでそこに考えをきめてしまっているもののように――