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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

吉川英治『三国志(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 页

青空文庫

けれど、火を焚いて、それらの食物を胃ぶくろへ入れる間もなかった。なぜなら部落のうしろの山から火の手があがり、

「すわ。敵だっ」と、またまた、逃げるに急となったからである。

「敵ではないっ。敵ではないっ」と、その敵はやがて追いかけて来た。何ぞ知らん、味方の大将の李典、許そのほか将士百人ばかり、山越えで逃げてきたものだった。

「やあ、許※(「ころもへん+睹のつくり」、第3水準1-91-82)も無事か。李典もおったか」

焼け跡から焼けのこった宝玉を拾うように、曹操は歓ぶのだった。やがて共々、馬を揃えて、道をいそぐ。――陽は高くなって、夜来の大雨もはれ、皮肉にも東南風すらだんだんに凪いでいた。ふと、駒をとめて、曹操は、眼の前にかかった二つの岐れ道を、後ろへたずねた。

「さればです」と、幕将のひとりがいう。

「――一方は、南夷陵の大道。一方は北夷陵の山路です」

「いずれへ出たほうが、許都へ向うに近いのか」

「南夷陵です。途中、葫蘆谷をこえてゆくと、非常に距離がみじかくなります」

「さらば、南夷陵へ」と、すぐその道をとって急いだ。

午すぎた頃、すでに同勢は葫蘆谷へかかった。