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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

吉川英治『三国志(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 页

青空文庫

「しまったっ。少し深入りしたかたちがある。なぜもっと早くいわなかったのだ」

そのとき――一陣の殺気というか、兵気というものか、多年、戦場を往来していた夏侯惇なので、なにか、ぞくと総身の毛あなのよだつようなものに襲われた。

「――それっ、引っ返せ」

馬を立て直しているまもない。四山の沢べりや峰の樹かげ樹かげに、チラチラと火の粉が光った。

すると、たちまち真っ黒な狂風を誘って、火は万山の梢に這い、渓の水は銅のように沸き立った。

「伏兵だっ」

「火攻め!」

と、道にうろたえだした人馬が、互いに踏み合い転げあって、阿鼻叫喚をあげていたときは、すでに天地は喊の声にふさがり、四面金鼓のひびきに満ちていた。

「夏侯惇は、いずれにあるか。昼の大言は、置き忘れてきたか」

趙雲子龍の声がする。

さしもの夏侯惇も、渓川におちて死ぬものやら、馬に踏まれて落命するなど、おびただしい味方の死傷を見ては、ひっ返して、趙雲に出会う勇気もなかったらしい。

「馬に頼るな。馬を捨てて、水に従って逃げ落ちよ」

と、味方に教えながら、自身も徒歩となって、身一つを遁れだすのがようやくであった。

後陣にいた李典は、