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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

「大分おとなしいのね。」

「お嬢様、ちとお叱んな……」と台所から。

「なッ!」

とだしぬけに押伏せて、きょとんとして、

「納豆、納豆ウい、納豆、納豆ウ、」

「おばさん、屑屋より、この方にすれば可かったのね。」

女房は火を入れながら、生真面目に、

「どちらがどちらとも申されません。」

「お嬢さん、」と仰ぎさまに、酒くさい口をあけて、熟と顔を視て、

「そんな時に、私を尋ねて下さりゃ可いんだのになあ、」

「それだって、お前、来てくれたって、逢ったって、お酒も飲ませられないし、煙草も与れないし、可哀相だもの。」

「いえ、頂こうというんじゃねえんで、そんな時だ、私あ、お嬢さんにどうにかすらあ。盗賊でも、人殺でも、放火でも何でもすらあ。ええ、お嬢さん、」

「愛吉、難有うよ、」

とかけた手で、軽く二ツばかり揺ぶって、うつむきざまにはらはらと落涙した。

ただ、ここに赫としたのは台十能の中である。

「二階へおいでな。」

「ええ、なに………」

「構いはしないよ。」

「ええ、なに………」

「もう、お嬢様、この方はね、」

「おっと納豆ウ、納豆、納豆い、」

「あの、唯今、屑屋さんのかわりに、私の蘭蝶をお聞きなさろうという処なんでございます。