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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

(上げ板を剥って見ろ、押入の中の夜具じゃねえか、焦臭いが、愛吉の奴がふて寝をしていやあがるだろう。)

なんてって親方徒が、串戯にもいったんですが、それでもざっと一年ばかり、彼奴の火沙汰がなかったんです。

すると、おかみさん、どうでしょう、念にゃ念の入った、この夏、八月の炎天に、虚空を飛んで、ごろごろと舞い戻りやがって、またぞろ、そこら転がって歩行くでさ。へい。」

といって煙を吹いた。顔が赤く、目が円い。この若いもの、余程おびえているのである。

余りの事に、はじめは笑って聞いていた女房は、なぜか陰気な顔をして、

「厭だよ、どこから舞い戻って来たんだねえ。」

「それがどうです。そら、そういった工合で、東京中は喰い詰める――し、勿論何でさ、この近在、大宮、宇都宮、栃木、埼玉、草加から熊ヶ谷、成田、銚子。東じゃ、品川から川崎続き、横浜、程ヶ谷までも知っていて対手にし手がないもんですから、飛んで、逗子、鎌倉、大磯ね。国府津辺まで、それまでに荒しゃあがったんでね、二度目に東京を追出てもどこへ行っても何でしょう、おかみさん。

(は、愛吉か、きなッくさい。)

と鼻ッつまみで、一昨日来い! と門口から水でしょう。