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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

ことに女主人なり、忘れてもこんな事は、とそこで何か急に恐くなったか、密とあけて見ると良い月夜、式部小路は一筋蒼い。

塵も埃も寐静ったろうと思う月明りの中に、曲角あたりものの気勢のするのは、二階の美しいのの魂が、菊の花を見に出たのであろう。

女房はフト心着いた。黙って帰して、叱られはしまいか、とそこで階子段の下に立寄って、様子を見たが、寂寞している。覗くようにしたけれども屏風はたったり、行燈の火も洩れず。

(お嬢さん、)と小声で呼んで見たが、答えがない。その夜に限って、上って見ようとは思わず、いつの間にか時が経ったと見えて、もう冷くなった寝床へ入って寐た。

あくる日は、平日より早く目が覚めたが、またお夏が例になく起きて来ぬ。台所もすっかり片づいて、綺麗に掃除が出来、朝飯が済んで、しばらくして茶を入れて、毎日飲む頃になったが、まだ下りぬ。

沸り切っていた湯が冷めるから、炭を継いで、それから静に上って見た。屏風の端から覗くと、お夏は床の上に起上って、暖に日のさす小春の朝。行燈の紙真白に灯がまだ消えず。ああ、時ならぬ、簾越なる紅梅や、みどりに紺段々八丈の小掻巻を肩にかけて、お夏は静としていた。