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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
巡査の姿が、ずッと出た時、はじめて我に返ったか、どさくさ紛れに影が消えたそうですが、どこまで乱脈だか分りません。火の玉め、悠々落着いて井戸端へまわって出て、近所隣から我れさきに持ち出した、ばけつを一箇、一杯汲み込んで提げたは可いが、汝が家の燃えるのに、そいつを消そうとするんじゃないんで。店先に込合っている大勢の弥次馬の背後へ廻って、トねらいをつけて、天窓ともいわず、肩ともいわず、羽織ともいわず、ざぶり、滝の水。」
「大変だ、」と女房。
「そら、ポンプだ、というと呵々と高笑いで、水だらけの人間が総崩れになる中を澄まして通って、井戸端へ引返して、ウイなんて酔醒の胸のすくでね、すぐにまた汲み込むと、提げて行くんです。後からあとから人集りでしょう。直にざぶり! 差配の天窓へ見当をつけたが狛犬へ驟雨がかかるようで、一番面白うございました、と向うのにごり屋へ来て高話をしますとね。火事場にゃ見物が多いから気が咎めるかして、誰も更って喧嘩を買って出るものはなし、交番へ聞えたって、水で消さずに何で消す、おまけに自分の内だといや、それで済むから持ったもんです。
ところが済まないのは差配の方です。