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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

俤はその名である。月のような日中の橋も、斉しく麗人の姿を宿した。

それまで彳んだ娘の思は、これで通ったものであろう。可愛い唇の紅を解いて、莞爾して顔を上げた。身は、欄干に横づけに。と見ると芳紀二十三? 四。目色に凛と位はあるが、眉のかかり婀娜めいて、くっきり垢抜けのした顔備。白足袋の褄はずれも、きりりと小股の締った風采、この辺にはついぞ見掛けぬ、路地に柳の緑を投げて、水を打ったる下町風。

恍惚と顔を上げ、前途を仰ぐように活々した瞳をぱっちりといたが、流を見入って、疲れたか、心にかかる由ありしか、何となく弱々と、伏目になってうつむいて、袖口を胸で引き合わすと、おのずからのように、歩が運んで、するする此方へ。

渡り越して、その姿、低い欄干を放れると、俤橋は一点の影も留めず、後になって、道は一条、美しくその白足袋の下に続いた。

さて小店の前を通った時、前後に人はなし、床几にも誰も居らず、目白もかくれて、風も吹かず、気は凝って寂としたから、その柿と、梨と、こつこつと積んだのが、今通る娘のために、供物した趣があったのである。

通りかかりに見て過ぎた。娘の姿は、次第に橋を距って、大きく三日月形に、音羽の方から庚申塚へ通う三ツ角へ出たが、曲って孰方へも行かんとせず。