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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
お嬢さんは?」
「私かい、」
「何ですか、蔭で聞きますりゃ、御新造さんもお亡なんなさいましたッて、飛んだ事で、」と震えて蒼くなっていう。お夏も心が激したか、目のふちに色を染めて、
「ああ、愛吉、お前のおともだちの蔵人(軍鶏呼名)もね、人形町の火事ッきり、どこへ行ったか分らないんだよ。愛吉てば、お前、おっかさんが亡なっても、家が焼けても、まるで顔を見せないんだもの。
お前、おっかさんが亡なっては、私一人ぼっちじゃないか。人形町の内が焼ければさ、私はどこにも行く処がないじゃないか。
それだのに、ちっとも来てはくれないんだもの、随分だわ。」
愛吉は堪えかね、堪えかねて、火の粉が入ったようにぐッとその目を圧え、
「だって、だって何でさ、加茂川亘さんて――その、あの、根岸の歌の先生ね、青公家の宗匠ン許へ、お嬢さんの意趣返しに、私が暴れ込んだ時、絽の紋附と、目録の入費を現金で出しておくんなすったお嬢さんを大贔屓の――新聞社の旦那でさ。遠山金之助さんですよ。
その方に、意見をされて、私のようないけずな野郎が、お嬢さんと附合っちゃ、お前さんの何でさ、為にならねえからッて、いわれたもんで。