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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

強そうな顔をして、やッと起きると、ひょろりでトン、足を投げてきょとんとする。

お夏は密と引いて見て、はらりと放した。手巾を畳に残して、隣座敷へ、すいと立った。背姿で忙しそうに、机の前なる紅入友禅の唐縮緬、水に撫子の坐蒲団を、するりと座敷の真中へ持出したは、庭の小菊の紫を、垣から覗く人の目には、頸の雪も紅も、見え透くほどの浅間ゆえ、そこで愛吉の剃刀に、衣紋を抜かん心組。

坐りもやらず蒲団の上。撫子の花を踏んで立つと、長火鉢の前、障子の際に、投出されたという形。目ばかり光らす愛吉を、花やかに顧みて、

「鎮西八郎、為ちゃん。」

「や、」

「曾我五郎、時さん。」

「こいつあ、」

「泥酔の愛ちゃんや。」

「ええ。」

お夏は片襷を、背からしなやかに肩へ取って、八口の下あたり、緋の長襦袢のこぼるる中に、指先白く、高麗結びを……仕方で見せて、

「ちょいと、こういう風でね。」

かくて酒肴の用足しから帰って来た女房は、その手巾を片襷に、愛吉が背後へ廻って、互交に睦じく語らいながら、艶なる頸にきらきらと片割月のきらめく剃刀。物凄きまで美しく、向うに立てた姿見に頬を並べた双の顔に、思わず見惚れて敷居の際。