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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
「話の続は、今その吾妻コオトを着た処でしたな。それから、同一く、それもやはり、とって置いたものらしい。藍鼠の派手な縮緬の頭巾を取って、被らないで、襟へ巻くと、すっと車へ乗る。庭に居たものは皆一斉にそっちの方。
母衣をきりきりと巻き下ろして、楫棒を上げる内に、お夏さんは乗りながら、袂から白いものを出した。ヤ、最中を棄てるのかと思うと、そうじゃなかったんで、手巾でげす。
でね、妙なことをしたというのは、もう一ツ小さな壜を取出して、その手巾の中へ、俯向けにしました。車が二三間駆け出す内に、はらはらと、肩から胸へ振りかけたと思うと、その壜を、母衣のすかしから、白い指で、往来へ棄てたんでがす。
後で知れました。白書薇の香水なんで。山の井医学士夫人、子爵山河内定子は、いつでもこの香水の薫がする。
と、お夏さんが愛吉に教えておいたものだッて、いうじゃありませんか。
何と驚いたものでがしょう。その袖の香を心当てに、谷中のくらがり坂の宵暗で、愛吉は定子(山の井夫人)を殺そう。お夏さんは定子になって殺されようという、――まだもっとも、他に暗号も極めてあったんではありますがな、髪を洗って寝首を掻かせた、大時代な活劇でさ。