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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「え。小屋掛けってえと?」

「おかしらがゆうべ、派手なことをなすッちまった旅芸人の女太夫白秀英の演劇小屋でございますよ」

「ああ、あの……」

雷横は、がつんと、しびれた頭を吹き醒まされた。が、さあらぬ顔で老母の姿へ言っていた。

「なあに、おっ母さん、じつはゆうべ、ちょいとした弾みから、その小屋者と、ひょんな喧嘩をしちまったんで。……なにもべつにそうご心配なさるほどのことじゃありませんよ。すぐ帰って来ますからね」と、一方の下役達へも、わざと笑顔を作って見せながら、

「さあ行こう。こんど来た新任の知事さんも、物わかりのいいお人だ。話せばわかって下さるだろ」

と、すずやかに、我れから先にわが家の門を出た。

しかし例の町端れまで来てみると、事態の空気は容易でない。――ゆうべの騒動で太夫元の白玉喬は片腕を折ッぴしょられ、下座出方の連中も、あたまを繃帯したりビッコを曳いたり、かつはまた、舞台もあれで中止となってしまったので、今朝はそれらの客までが小屋前へ押しかけて、

「木戸銭を返せ! 銭で返すなり、今夜の木戸札を、もう一度無料で配れ」

などと昼からそこはもうたいへんな騒ぎなのだった。