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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

すると、禅床で修行中の二、三名が覗きにきて。

「おい、新発意。なぜ坐禅でもしないのか」

むくむくと身をもたげると、魯智深の方こそ、なんとも不審そうに、両手で頬杖したままいう。

「三帰のうちにも、五戒の中にも、寝ころんじゃいけないという“戒”はなかったぜ」

修行僧は呆れて、首座に訴えたが、首座も手がつけられないとみたか。

「いや、あの方外人は、長老にいわせると、なんでも天の一星の宿性をうけた者とかであるそうな。当分はまあ放ッといてみるしかあるまい」

智深の起居は、まるでところを得た猛獣のようなものである。誰も干渉の仕手がないのをいい気にして、眠れば雷のごときいびき、醒むれば、仏殿の裏、浄林の蔭、ところ嫌わず放尿もするといった態たらく。

――かくて早くも五台山の夏から秋の四、五ヵ月も過ぎ、季は紅葉の燃ゆる晩秋の頃となった。

なんとなく里恋しく、魯智深は墨染の衣に紺の腰帯をむすび、僧鞋を新たにして、ぶらと文殊院から麓道のほうへ降りていった。

「……はてな。こいつはたまらぬぞ。ぷウんと、久しく忘れていた香が、どこからともなく風にのってくるが?」

それは秋草の花の香ならぬ酒の匂いだった。