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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「かっッ」
と、背にある太阿ノ剣をぬきはなった。そして剣の刀背を眉間に立てて何やら一念、呪文をとなえるらしい姿であった。――と見た花栄は、わけもなくぞッとして「あっ、妖人?」と、思わず引きしぼッた弓の弓弦をぶンと切った。その矢はあやまたず、高廉の真額を射た。いや射たと思われたのに――一道の黒気が矢をも高廉の影をも、墨のごとく吹きつつんでしまっていた。そしてとつぜん、大地は鳴り、天もゆすれ、怪しい風が、ゴオッと翔けたあとから、小石のような雹が、人馬の上へ降ッて来た。
「や、や?」
「これは?」
と、梁軍七千の人と旗は黒い風に吹きちらされ、揉み舞わされ、冬の木の葉に異ならない。あれよあれよの、叫喚だった。ただ見る日輪だけが赫く、雹に交じって砂礫を吹きつける。しかもまたその中を、長髪鬼のような飛天神兵の数百が槍を持って馳けまわり、逃げまどう梁山泊軍は、そのため、またたくうちに、千人の兵を失ってしまった。
「退けっ。ひとまず、退けい」
さしもの軍師呉用すら、また宋江も、すっかりこれには狼狽して、ただもう逃げ奔るしか、一時の処置も知らなかった。
さて、残軍六千を、からくも城外五十里の遠くに、陣を引きまとめて。