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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

さらには、やがてまた、「おお、また見えたの」

と、内から聞えたのも紛れなき羅真人の声であり、またその人の姿だった。しかも、きのうよりは、うちとけて、

「ま。すすめ……。そこな、後ろの方に、うずくまっておる黒猿も、ここへ来い」

と、あるではないか。

李逵はただもう度胆をぬかれ、総身の骨もガクガクしていた。元々、この男は天上界における天殺星という魔星であって、かりに人の世に生れ、文明の灯が江湖にかがやくまではと、天帝のおいいつけで、世造りと人革めのため血をながす地獄仕事をしなければならない宿命となっている。――ということが、羅真人の神眼には、ちゃんとわかっているのらしい。この黒面の殺人猿をあつかうこと、まるで子供を観るにひとしかった。

「李逵よ。どうした。なぜ前へすすんで出ぬ」

「へ、へい」

「おかしな奴よの。ところで、両人」

「はっ」

「願いの儀、かなえてつかわそう。一清の母は、わしが見ておく。さっそく下山するがよい」

「えっ、ではこの一清に、おいとまを給われましょうか」

「む。しかし一清、汝はなおその修行も法術も、かの高廉とひとしい程度の者にすぎん。依って、下山に先だち“五雷天”の秘法をさずけつかわそう。