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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
下では、山将の花栄、秦明、林冲など、
「高廉は、どこ?」
「雑兵なんどに目をくれるな」
「高廉をさがせ。あの妖官を逃がすな」
と、弓の弦を引きしぼって喚き求めていたのである。
するうちに。
「――あッ」
誰かが叫んだ。眼を射られたかのように目へ肱を曲げて空を指した。
見ると、一朶の黒雲が望楼を繞って、望楼をスウと離れてゆく。――チカチカッと墨の中で何かが光った。光が眸を拒むのである。だが痛みを怺えて凝視すると、それは一本の剣の剣光にちがいない。しかもぼうっと高廉の姿も見え、太阿の印をむすび、雲を踏んでいるものだった。そしてみるみる西南の空へ移行していた。
「や、やっ」
「妖人め」
矢さけび起して無数な矢が雲を追った。雲を縫った。
しかし、ゲラゲラと雲は笑う。
このとき、これを知った宋江も呉用もまったくあわてた。指揮に声をからしても、ほどこすすべすらなかったからである。そして「一清はどこに。一清公孫勝は何をしているか」とあたりへどなった。
知らぬではない。公孫勝もこれを見ていた。
彼は州城内の一宇、霧谷観と額のある堂の真ン前に佇んで、虚空を仰いでいたのであり、師から授かった“五雷天”の秘咒に気魂を凝らしていたのだった。