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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
と、医者は言った。一同いささかほっとする。
五体は傷だらけだが、致命的な深傷はまずないという。まなこは一度開いたが、またすぐ瞼を閉じてしまった。もとより気息もあるやなし。――打ち囲んで案じる人々の顔は、医師の一挙一動、また芥子粒ほどな銀丹(神薬)をその歯の間にふくませて、うまく喉へ落ちるかどうか。それさえ固唾を呑む思いで、時たつのも忘れていた。
いや忘れたのはそれだけではない。まだ井戸の底に残っている李逵のことまですっかり紛れ果てていた。気がついた宋江が、
「そうそう、鈴も竹籠と一しょに上がってしまっている。さだめし李逵が喚いているにちがいないぞ。早く上げてやれ」
と手下どもへ注意したので、急に、ああそうだったと、笑いどよめいたことだった。そこでさっそく次の段取りにかかったが、ほどなく空井戸の口から飛び出して、ここへ立つが早いか、かんかんになって怒ったのはその李逵である。半刻(一時間)の余も井戸の底から上へ呶鳴りつづけていたらしく、精も根も切らして泣きベソを掻いていた焦躁が声の嗄れにも分って憐れにもまたおかしかった。
「やいっ、何がおかしいンだ。ふざけやがってよ。